ショーケース 上野
2023.04.26 UP

【SHOWCASE UENO】#008. 八尋梨穂 Riho Yahiro《霊園 cemetery》

ショーケース上野 SHOWCASE UENO
2023.4.17ー5.12
#008. 八尋梨穂 Riho Yahiro《霊園 cemetery》

[コンセプト Concept]

ショーケースに並べられているのは、牛の耳標です。私は牛の屠殺場を見学し、屠殺現場を直接みたことがあります。多くの牛たちは食肉として加工され、私たちの前に現れますが、屠殺された牛たちの存在は番号だけで残されることに、虚しさを感じました。私はその思いから、耳標を並べて、それが牛たちの霊園となることを願い制作しました。
(八尋梨穗/東京藝術大学美術学部先端芸術表現科2年)

ショーケース上野での第8弾となる今回は、先端表現領域の学部2年生である八尋梨穂さんの《霊園》をご紹介します。展示されている黄色いグは、食品加工される牛の耳につけられる耳標です。耳標には牛を個体識別するための10桁の番号が印字されており、牛が生まれてから死ぬまで(屠殺されるまで)の個体の存在を示しています。このシステムは2000年に入って牛の脳内を海綿化させるパンデミックの影響によって定着し、後に制度化されました。この耳標(=個体識別番号)という合理化れたシステムによって、私たちは安心して食事をすることができるようになったのです。

考えてみれば、牛だけなく目に見えるほとんどのものに番号が付けられていることに気がつきます。流通している製品も管理のために商品番号が付けられているし、大学の本にだって所在がわかるように番号が付いていて、私たちにだって学籍番号、出席番号、マイナンバーなどの番号が割り振られています。あらゆるものに番号や名前をつけ、識別し、システム化して管理することで、私たちは合理的で効率的な時間(=生活)を送ることが出来ているのです。その一例である牛の耳標は、牛が屠殺されると管理する必要がなくなるので、廃棄されます。八尋さんはそれを36個、グリット状に並べて作品にしました。整列れた耳標は合理化されたシステムそのものを見ているかのようです。

しかし、合理化し、効率化するために名前や番号をつけることで、見えなくなってしまうものは少なくありません。個性や人格を持っているにもかかわらず、現代社会においては、合理化されたシステムによって個体識別番号としてしか存在していい合理化されすぎている現代社会において、牛の存在が番号によってしか残らないことに八尋さんは虚しさを感じていると言います。《霊園》は番号として残された牛たちの存在に思いを馳せ、集う、弔いとしての場所なのです。本作品を鑑賞しながら、作品から放たれる静かで祈りに満ちた空気を共に分かち合えたら、幸いです。

(鈴木萌夏/東京藝術大学先端芸術表現博士2年)

[作家について About the Artist]



八尋梨穂 Riho Yahiro
2003年大分県生まれ。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科在籍。
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